昨日まで横浜に行ってました。ほぼ、初横浜。
そこで、「馬車道」という地名を目にして、ひとりテンションが上がりました。
馬車道は、このシリーズの、舞台の一つなのです。
島田荘司「御手洗潔シリーズ」。
「占星術殺人事件」で鮮烈なデビューをし、今の本格ミステリー界を切り開いた島田荘司の、超人気・名探偵シリーズです。
(あぁまたミステリになっちゃいました。。)
この「異邦の騎士」は、名探偵御手洗潔の最初の事件で、執筆時期も一番最初の物ですが、刊行されたのはシリーズが既に何作か出てからでした。
お話は、記憶喪失になった男の一人称での描写から始まります。
そして彼の目線から、あるとほうもない事件が語られていきます。
記憶が戻らないまま、ふとしたことで知り合った女の子と同棲しはじめる主人公。
肩を寄せあうようにつましいながらも穏やかで幸せな暮らしを送るのですが、徐々によみがえる記憶の断片が少しずつ日常を侵食しだします。
ネタバレになるのでこれ以上は書けませんが、上の粗筋から二転三転と意表をつく展開がある、読後思わずため息が出るような素晴らしく練り上げられた作品です。
島田荘司はミュージシャンだった時期もあり(と言ってもうちの父と同い年ぐらいの方です)、詩人で、独特の美しい文章を書くのですが、この作品は特に詩的に、どこかもの悲しく情緒たっぷりに描かれています。
またストーリーも、舞台は昭和50年頃・背景にはジャズ喫茶や横浜の運河があり風情たっぷりな中、ひとりの弱い小さな青年が翻弄されながら精一杯生きようとする、ほろ苦い青春ストーリーとも言えます。
さっきちょっと最後の部分を読んだだけで涙ぐみました。
いやー、ほんといい小説なんでもう誰にでも読んで欲しいんですが(こればっかり)、ネタバレを避けながら一つ言いますと、「御手洗潔シリーズ」を何冊か読んでからこの本を読んで欲しいです。
もう、思い入れが全然違います。いわば名探偵誕生前夜のような話ですので。
ちなみにこのシリーズ、文化系女子たちに大人気だったりします。作者本人も作中で同人誌が送って来られるといったようなことを度々語ってますし、その後一時期は同人漫画家とコラボまでしていました。(微妙でしたが。。)
今はミステリー界に、なんといいますか萌え要素のあるというかキャラが立ってるというか、文化系女子人気の探偵物はたくさんありますが(京極堂とか)、私の知る限りは御手洗潔が大きな流れの先駆けだったと思います。
“青春小説、恋愛小説、華奢で音の響かぬこのアクースティックな楽器を用いて本格ミステリーという激しいビートの音楽を無謀にも奏でようとした”三十歳になりたてだった頃の著者が、当時の想いをぶつけて綴る
「異邦の騎士」。
本を読む人で、本当によかった!
写真に写ってるのは後から出た改訂版と本来の分とです。